
為替と株価はどれだけ連動する?―円安・円高が市場・業種・個別銘柄に与える影響をデータで検証
目次
はじめに
株価は為替に影響を受けて変動します。主な理由は、為替が企業の業績に影響を与えることと、海外投資家の行動に影響を与えるためです。
為替が企業の業績に与える影響
外需・輸出型企業
円高・ドル安では外貨建て売上が目減りし利益率が圧縮される
→ 株価に下押し圧力
代表例:自動車、半導体、鉄鋼、機械
内需・輸入型企業
円高・ドル安ではドル建て原材料・エネルギーのコストが低下
→ 利益率改善 → 株価押し上げ要因
代表例:電力、ガス、化学、紙パルプ
為替が海外投資家の行動に与える影響
円高時には外貨ベースで見た日本株のウェイトが膨らむ
→ ポートフォリオ調整の売りが入り株価の下落要因となりやすい
本記事の目的
為替と株価の関係が語られることは多いものの、実際に どの程度の強さで連動するのか はあまり可視化されていません。本記事では過去5年分のデータを用いて、
- 市場全体
- 業種平均
- 個別銘柄 の3階層で相関を計測し、為替感応度(“為替β”)の輪郭をつかみます。
データ概要
- 期間:2020/1/6 – 2025/4/17
- ※2020/10/1(東証システム障害)は除外
- 為替:東京市場 USD/JPY スポット 09:00
- 株価:
- 市場代表:NF・TOPIX ETF (1306.T) 始値
- 個別:2024/4/17時点の日経500採用全銘柄 始値
結果
市場全体の傾向
USD/JPY日次リターンとNF・TOPIX ETF 日次リターンの散布図は下図の通りです。
- 回帰直線:\( y = 0.69x + 0.03 \) → 1%の円安でTOPIXは約0.7%上昇
- 相関係数:0.32(緩やかな正相関)
USD/JPYは値が大きくなるほど円安です。したがって、グラフの右側のほうが円安に変化したことを示しています。 グラフから、円安方向に変化したときに株価が上昇した傾向にあることが読み取れます。ただし、その傾向は非常に緩やかです。
TOPIXは時価総額加重のため輸出型メーカーの影響が強く表れます。加えて、円安時は海外投資家の調整のため買い需要が高まりやすいことが、このプラス相関を後押ししていると考えられます。
業種ごとの傾向
続いて、業種ごとに為替と株価の関係を集計しました。 業種平均の為替相関(上位・下位 10)は以下の通りです。
上位 | 相関係数 | 下位 | 相関係数 | |
---|---|---|---|---|
自動車 | 0.353 | ガス | 0.114 | |
ゴム | 0.312 | サービス | 0.116 | |
保険 | 0.280 | パルプ・紙 | 0.125 | |
その他金融 | 0.262 | 電力 | 0.129 | |
造船 | 0.259 | 水産 | 0.130 | |
証券 | 0.255 | 小売業 | 0.131 | |
機械 | 0.252 | 食品 | 0.136 | |
倉庫 | 0.251 | 海運 | 0.146 | |
繊維 | 0.241 | 医薬品 | 0.150 | |
石油 | 0.236 | 陸運 | 0.159 |
考察
自動車チェーンの突出した感応度 売上の大半がドル建て+国内の円建て固定費という構造で、為替変動が利益に直結すると考えられます。
機械・ゴムなどサプライヤーも高β 顧客である自動車メーカーの為替メリットが、部材需要を通じて波及していると考えられます。
低β業種は内需・ディフェンシブ中心 サービス、電力・ガス、小売などは売上・コストとも円建てが主で為替影響は限定的です。ただし、小売の一部や食品は輸入コスト上昇 → 利益圧迫でむしろ負の相関もみられます。
注意:相関は観測窓とリターン周期(日/週/月)で変動します。真の構造的感応度を測るにはマーケット因子を統制した多変量モデルやイベントスタディが必要です。
個別株分析
参考として、日経500に採用されている銘柄を対象に、為替との相関の大きさでランキングを作成しました。 基本的には自動車関係が上位を占める結果となりました。
為替との相関係数が大きい銘柄 TOP10
ランク | 証券コード | 銘柄名 | 業種 | 相関係数 |
---|---|---|---|---|
1 | 7270 | SUBARU | 自動車 | 0.529 |
2 | 7261 | マツダ | 自動車 | 0.406 |
3 | 7282 | 豊田合成 | 自動車 | 0.398 |
4 | 3116 | トヨタ紡織 | 自動車 | 0.397 |
5 | 7211 | 三菱自動車 | 自動車 | 0.395 |
6 | 6472 | NTN | 機械 | 0.386 |
7 | 7202 | いすゞ自動車 | 自動車 | 0.384 |
8 | 7203 | トヨタ自動車 | 自動車 | 0.382 |
9 | 6473 | ジェイテクト | 機械 | 0.372 |
10 | 8015 | 豊田通商 | 商社 | 0.371 |
為替との相関係数が小さい(負方向)銘柄 TOP10
ランク | 証券コード | 銘柄名 | 業種 | 相関係数 |
---|---|---|---|---|
1 | 9843 | ニトリホールディングス | 小売業 | −0.388 |
2 | 3038 | 神戸物産 | 商社 | −0.320 |
3 | 4443 | Sansan | サービス | −0.089 |
4 | 3349 | コスモス薬品 | 小売業 | −0.060 |
5 | 3769 | GMOペイメントG | サービス | −0.047 |
6 | 2871 | ニチレイ | 食品 | −0.031 |
7 | 4194 | ビジョナル | サービス | −0.021 |
8 | 3994 | マネーフォワード | サービス | −0.015 |
9 | 3064 | モノタロウ | 小売業 | −0.007 |
10 | 6532 | ベイカレント | サービス | 0.000 |
まとめ
- 市場全体:2020–2025年のデータでは 1%の円安で TOPIX は 0.7%上昇。相関係数0.32と緩や。
- 業種差:円安恩恵は自動車・機械・ゴムなど輸出製造業に集中。サービス・ディフェンシブはほぼ無風、輸入依存型小売はマイナスも。
- 銘柄選択の示唆:為替リスクを取りに行くなら高βの自動車チェーン、逆に円高ヘッジには内需サービス・小売を組み合わせるとポートフォリオβを調整しやすい。
- 留意点:為替と株価はマクロ要因で同時に動くため、単純相関だけでは因果を断定できません。イベントスタディや多変量回帰での再検証が望ましいです。
Warning
本記事は過去データの分析であり、特定銘柄や投資手法を推奨するものではありません。情報の正確性・完全性を保証せず、将来の株価動向を約束するものでもありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。当サイトおよび筆者はいかなる損失にも責任を負いかねます。